2026.05.25
五感で楽しむパルミジャーノ・レッジャーノ、美味の道 料理家・杉山恵美さんが紡ぎ出す一千年の時を感じる饗宴
千年の時を超えて受け継がれるパルミジャーノ・レッジャーノの魅力を、料理家・杉山絵美さんが夏の華やかな一皿で表現するイベント「五感で楽しむパルミジャーノ・レッジャーノ美味の道」が開催。親しいゲストを招いたランチとディナーで、その奥深い味わいと無限の可能性が披露された。

食は五感で楽しむもの。禅の教えから心も体も喜ぶ食事を考える
杉山絵美さんは、大学卒業後、イギリスへ留学し、フラワーアレンジメントとパーティプランニングを学んだ。そこでもてなすことの本質に触れ、人の心に訴えるものとは何なのかを考える術を身につけた。帰国後はハイブランドのPRとして数々の企画を打ちたて、成功に導いた。それと同時に食への飽くなき探究心に突き動かされ、世界各地を旅して回る。様々な食文化に触れるうちに料理家としての活動を本格的に開始。レシピ開発はもとよりレストランプロデュースなど食の分野において幅広く活躍している。
杉山さんの食についての基本的な理念は、五感で楽しむこと。心と体を同時に満たすことが大切だと言う。「食べることは人生の楽しみです。そして食べたものから身体は作られる。禅の教えに習い『食』をいただくことの感謝の心を持ち、人生を豊かにしてくれる食事であること、それがレシピを考え、実際に料理を作る時に一番大切なことだと思っています」

具体的に、パルミジャーノ・レッジャーノを五感で楽しむというのはどういうことだろうか。
「食事は味わうだけでなく、その時の会話や料理の盛り付けなどプレゼンテーションも大切です。その点においてまず、パルミジャーノ・レッジャーノには様々なプレゼンテーションの可能性があります。そのまま大きな塊でお出しすることもできますし、お客様の目の前で削って雪のようにふりかけたり、スライスしたり、視覚で楽しんでいただけるのです」
さらに杉山さんは、パルミジャーノ・レッジャーノの起源について気づいたことがあると言います。
「千年も昔に修道院で作られたというこのチーズは、日本の禅寺の文化にもつながるのではないか、と。私はコロナ禍の頃、永平寺で修行体験をしたのですが、お寺も、修道院も、祈りを捧げるところであると同時に、発酵食品や保存食が作られてきたところでもあります。日本のお寺でお味噌を作りますが、お味噌には数ヶ月かかるものもありますし、パルミジャーノ・レッジャーノは熟成に12ヶ月以上を要します。どちらもゆっくり時間をかけて、伝統の製法に則って、そして自然の力に委ねて手を加えすぎず、静かな祈りとともに発酵、熟成させるものなのです。日本のお寺から発展した食文化とイタリアの修道院から生まれた食文化という共通点に気づいた時、私の中ですとんと腑に落ちました。パルミジャーノ・レッジャーノもお味噌も千年以上もの長い間守られてきたもの、どちらも本物の味わいを持っているのだ、と」

長い時をかけて風土に育まれたものは、未来に継承されるべき
自然と向き合い、職人が丹精込めて作るパルミジャーノ・レッジャーノには、人と自然の調和という哲学的な背景もある。モデルとして真の美しさ、そして健やかさというものについて考えてきた長谷川理恵さんにとって、パルミジャーノ・レッジャーノはどのような食材だろうか。
「私は鎌倉に住んでいるのですが、周りでシェフですとか、友人たちが畑で野菜作りをしていて、たまにそのお野菜やハーブをいただくのです。最近は特に昔ながらの伝統野菜に着目した方たちが多くて、その伝統野菜を使ったサラダなどに、昔ながらの独特な風味や苦味といった野菜本来の味をしみじみと感じています。昔ながらの製法だったり伝統技術で作られたものって、その風土に合っているのですよね。本当にいいものが未来に継承され残っていったらいいなと思います。そういう意味で、パルミジャーノ・レッジャーノも、美味しいだけではなく自然にも環境にもとても優しい、素晴らしいものだと思います。科学の技術に頼らない、その土地の持つエネルギーがぎゅっと詰まっているところが、鎌倉の伝統野菜とリンクしていると感じています」

WabiYoga(侘びヨガ)という茶道の動きをもとにしたヨガを習得された長谷川さんは、日本の伝統の“道”の観点からパルミジャーノ・レッジャーノをどう捉えているのだろう。
「WabiYogaは、鎌倉の山田宗徧流家元の奥様の山田宗理さんが発案したヨガで、派手な動きはなく、軸を整えるということが一番大事。そして軸を整えるとともに、日頃の現代人が抱えているストレスから来る力みを軽減させるために考えられたヨガです。お茶室、つまり、畳の上でやるのですが、例えばすり足でお茶を運ぶといったすごく静かな動きです。体の中で一本強い軸が整っていて、木に例えると柳のような、どんなに風が強くても、しなやかで決して折れることがない、そういうところは、パルミジャーノ・レッジャーノ道にも通じているのではないでしょうか。道、というと、固いイメージがあるかもしれませんが、あくまでも柔らかく、自然体で伝統というものを守っていく、そして次の世代に伝えていくというところが道の本質で、パルミジャーノ・レッジャーノにも同じものを感じます」

ご家族と暮らす時間を大切にする長谷川さんにとって、家族から受け取り、そして自分に影響をもたらしてきたものとは何なのか。
また、今年 80歳になる母は料理研究家でして、鎌倉で料理のサロンをかれこれ40年ぐらいやっているのです。長崎出身の母は当地の伝統料理、例えば皿うどんを大皿料理として作ったりするのですが、それがすごく大変そうで。以前は受け継ぐ気はありませんでしたが、近頃はやはり自分がやりたいと思うようになってきました。また、私は子供の頃、ベルギーに住んでいたことがあり、その時は母もベルギーで家庭料理を習っていたのです。昔ながらの、きらびやかではないけれど、本当に食材を大事にした食事というものを教わって。それも今の母のお料理のベースとなっていて、食材の良さを生かしたところに、今あらためて感じるものがあります。自分が子供の頃に体験した食事環境を母から継承して、それを伝えていきたいと思っています」
「子供を産む前から良い食材を選ぶようにしていましたが、母親になって息子に食事を作るようになって、より安心で安全で、そして美味しいものを作ろうという意識が働くようになりました。今は息子が成長期に差し掛かって、ものすごく食べるので作りがいもありますし、彼のリクエストがまた細かくて。今日はトマトベースのソースで、パスタはこれで、といった具体に。ともかく、息子の笑顔が見たくて日々食事を作っているのですが、それが自分にとっても楽しく喜びであったりします。
普段の暮らしで長谷川さんはどのようにパルミジャーノ・レッジャーノを楽しんでいるのだろう。
「我が家は本当にイタリアンが多くて、いろんな料理に削ってかけていただいています。最近ですとイタリア風のパン粉料理ですね。イタリアはパン文化ですから、余ったものもパン粉にして、さらに味をつけて、色々なお野菜、お魚をなどに使える万能な香草パン粉にして。ハーブとパルミジャーノ・レッジャーノの組み合わせは香りとコクをもたらしてくれますから、シンプルなあっさりした白身魚に合わせたり、スパイス的なイメージです。パルミジャーノ・レッジャーノを入れることによって味が引き立ちますし、奥行きも広がりますね」

前菜からデザートまで、パルミジャーノ・レッジャーノの真髄を味わう
今回は、12ヶ月熟成の若いもの、24ヶ月熟成のミルキーな香りと旨みのバランスが絶妙なもの、36ヶ月熟成の旨みがしっかりと凝縮したものまでを使い、前菜からデザートまでの5皿全てにパルミジャーノ・レッジャーノが登場する。ベースとなるのは24ヶ月熟成のもの。どんな使い方をしてもそれぞれの皿の味わいの構成を整えてくれるからだという。
「36ヶ月熟成のパルミジャーノ・レッジャーノはそのままで主役になります。まず口の中に入れた瞬間に柔らかい塩味と旨味、その後にナッツのような香ばしさ。それから甘味が広がり、口の中に柔らかく残るのです。そして、口中に残るチーズの旨味がすごく優しい余韻となるのですが、それが驚くほど長く続きます。これはコースの最後、デザートの前にお出ししようと決めました」

杉山さんが考案したのは、前菜に始まり、リゾット、魚料理、肉料理、そしてデザートというコースで、まず前菜には削りながら雪のようにふりかけて、リゾットでは溶かし込んで、魚料理ではソースに混ぜ、肉には36ヶ月熟成のものをスライスしてたっぷりかけ、デザートのチーズケーキは生地に混ぜ込んだ上に焼く前にもふりかける。まさに、下ごしらえから食卓でのプレゼンテーションまで、多彩な使い方ができるのがこのチーズの本領である。
「今の時代、簡単に早く作れる方法を模索する傾向はますます加速しています。それはそれでいいと思いますけれど、やはり、ゆっくり自然の力で作られた本物と、急いで作り上げたものの味わいの違いを、このコースを通して皆様に感じていただきたいと思います」

1皿目は「ズッキーニのカルパッチョ パルミジャーノ・レッジャーノとレモンの香り」。薄くスライスしたズッキーニに、オリーブオイルをかけ、パルミジャーノ・レッジャーノを雪のように削りかける。最後にレモンを絞って完成。削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノの芳醇な味わいとレモンの爽やかさが見事な調和を見せ、これから始まる食事への期待感が高まる、華やかな幕開けの一皿。

2皿目として供されたのは「パルミジャーノ・レッジャーノとトマトのリゾット 生ハムを添えて」。パルミジャーノ・レッジャーノを使う代表的な料理の一つ、リゾット。しかし、リゾットは時間がかかる上につききりで仕込まなければならないのが悩みの種。そこで杉山さんが編み出したのは、炊飯器を使う方法。トマトと玉ねぎを米と一緒に炊いた後、鍋に移したら5分で仕上がるという。最後にすりおろしたパルミジャーノ・レッジャーノを加え溶かして味を整える。トマトの酸味、生ハムの塩味、そしてパルミジャーノ・レッジャーノの旨みが一つになって、深い滋味の世界へと誘う。

3皿目は「白身魚のポワレ 小松菜ジェノヴェーゼ風」。真鯛やスズキなど淡白な白身魚を蒸し焼きにして、バジリコの代わりに小松菜を使ったペスト・ジェノヴェーゼ風ソースを添える。バジリコは時間の経過とともに色が変わるが、小松菜の緑はいつまでも鮮やかさを失わないため、目にも楽しいソースとなる。その上、小松菜独特のほのかな苦味がパルミジャーノ・レッジャーノの旨みと出会い、日本らしいまろやかさをもたらしてくれる。白身魚の繊細な味を引き立てるこのソースは、他にも、例えばそのままバゲットなどパンに添えて食前酒のおつまみにも良い。

コースのクライマックスは「牛肉のタリアータ オレンジ香るバルサミコソースとパルミジャーノ・レッジャーノ」。赤身の牛肉を塊のまま表面をこんがりと焼き、5ミリ程度の薄切りにして盛り付け、36ヶ月熟成のパルミジャーノ・レッジャーノをスライスしてたっぷりとかける。最後にバルサミコ酢、赤ワイン、醤油、イタリアのオレンジママレードを煮詰めたソースを添える。赤身肉に熟成したパルミジャーノ・レッジャーノの凝縮した旨みが味わいに奥行きを与え、ソースの酸味と甘みとコクがアクセントとなった、印象的かつ満足感の高い一皿。

デザートは「トレ・フォルマッジのクリーミーチーズケーキ」。杉山さん曰く、チーズケーキにする場合、パルミジャーノ・レッジャーノと他のチーズとのバランスを図ることが一番のポイントである。そういう点において同じイタリアのマルカルポーネとニュートラルなクリームチーズがベストな組み合わせとなったという。ふんわりと優しいテクスチャーの中に、生地に使った甜菜糖の甘みとパルミジャーノ・レッジャーノの旨みと塩味が絡み合い、甘すぎず、心地よい余韻が続く、コースの流れを昇華させる見事なフィニッシュとなった。
すべての料理を味わった長谷川さんは、「どのお料理にもチーズが使われているのに、まったく重さを感じませんでした。流れが自然で軽やかで。パルミジャーノ・レッジャーノの素晴らしさと、杉山さんの食材への深い造形と愛を感じる、とても素敵なひと時でした」と称賛。
ゲストの喝采に迎えられた杉山さんは、「イタリアの一千年の歴史の中で育まれてきたという、それを味わえることがこのチーズの一番の魅力だと思います。長い時をかけて私たちのもとに届けられた恵をいただく、その感動を皆さんと共有することができ、本当に嬉しく思っています」と、“美味の道”を締めくくった。
※パルミジャーノ・レッジャーノが認定を受けるPDOとは:
パルミジャーノ・レッジャーノは、EUの原産地名称保護(PDO)に認定されているチーズです。添加物や保存料を一切使用せず、伝統的で自然な製法によって作られています。また、世界で最も模倣や偽造が多いチーズの一つでもあり、PDO制度はこのような製品の呼称や品質を守るために設けられています。
*パルミジャーノ・レッジャーノ チーズ協会(CFP)のこの活動は、プログラム101194314 ENO-E(欧州連合規則第1144/2014号に基づく)として欧州連合の共同資金の助成を受けています。

