2026.02.16
四百年の手仕事、甘味のその先へ。 森八の和菓子とパルミジャーノ レッジャーノ、伝統の味が出会う瞬間。
1625年創業。2025年に400周年を迎えた老舗和菓子店・森八。その十九代目の若女将であり、和菓子職人でもある中宮千里さんに、代々受け継がれてきた和菓子づくりについて話をうかがった。さらに、和菓子と組み合わせたパルミジャーノ レッジャーノの新しい楽しみ方も提案いただいた。
四百年の歴史を紡ぐ、森八の和菓子づくり
1625年創業。2025年に400周年を迎えた老舗和菓子店・森八。加賀藩御用達の菓子司として金沢城下に本店を構え、武将や茶人たちの舌を楽しませてきた。森八の菓子のラインアップには、創業以来およそ380年にわたり受け継がれ、日本三名菓の一つに数えられる「長生殿」などもある。伝統とともに歩みながら、その時代、その時代の人々に親しまれてきたことがうかがえる。

金沢市大手町に所を構える森八本店。1階にショールーム、2階には菓子作りに使われてきた約1000点もの菓子木型を展示する金沢菓子木型美術館を併設する。
今回は、森八十九代目の若女将であり、和菓子職人でもある中宮千里さんに、代々受け継がれてきた和菓子づくりについて話をうかがった。さらに、和菓子と組み合わせたパルミジャーノ レッジャーノの新しい楽しみ方も提案していただいた。

森八 十九代目の若女将・和菓子職人の中宮千里さん。
長年にわたり受け継がれる、森八の和菓子づくりのこだわりを教えてください。
「和菓子は素材がシンプルなものが多く、それゆえ素材そのものの良さが味に大きく影響します。ですので、使用する素材には特にこだわっています。また、森八では素材だけでなく、“水”も大切な“味付け”のひとつです。餡(あん)の炊き上げに使う水には地下天然水を使用しており、天然水に含まれた豊富な鉄分が、お菓子のおいしさを引き立ててくれるのです。手取川の伏流水をふんだんに使った、この土地ならではの和菓子づくりに励んでいます」

森八の上生菓子。四季折々の変化を楽しめる。
菓子の素材選びで気にかけていることを教えてください。
「菓子ごとにさまざまな素材を吟味し、使い分けています。例えばあずきは、数種類のものを丹念に炊き分けています。代表的なのは、地元・石川でとれる大粒の“能登大納言”です。能登の風土で育ったこのあずきは、粒が大きく、色合いが美しいのが特徴です。なかでも粒が大きいものは収穫量も少ないのですが、 “森八に使ってほしい”と言ってくださる農家さんもいらっしゃり、良質なあずきを仕入れさせていただいています。地元の良質な素材を使うことは、地域の循環にも貢献できるのかなと考えています」

色素については、天然のものを使用しているとお聞きしました。
「はい、色素は天然由来のものを使用しています。弊社の代表的な銘菓には、“長生殿”という落雁と、“千歳”という伝統的な祝い菓子がありますが、これらは紅白の色合いが特徴です。その赤の色素には紅花を使用しています。長生殿はもともとお殿様に献上するために作られた菓子で、紅花は当時から最高級の色素として使われていました。紅花はコストが高く、熱に弱く保存が効かないなど扱いが難しい素材ですが、天然色素である紅花を使用することは私たちの誇りでもあり、創業当時から変わらない材料を使用しています」

(左)長生殿(ちょうせいでん):加賀藩御用達菓子司・森八を代表する、日本三名菓のひとつ。落雁ならではのやさしい口どけと、紅花で染めた淡い紅白が、四百年近くにわたり祝いの席を彩ってきた。静かに広がる甘味に、歴史の重みを感じる一品。(右)千歳:紅白の彩りが印象的な、森八の伝統的な祝い菓子。長寿や繁栄への願いを込め、節目の日に選ばれてきた。素朴で澄んだ甘味は、世代を超えて寄り添う味わい。
手の仕事が支える、金沢の和菓子文化
和菓子は手づくりで作られるのでしょうか。
「和菓子の多くは手作業で作られています。 一部機械化されている工程もありますが、ほとんどがひとの手によるものです。特に上生菓子と呼ばれる、練り切りを使ったお菓子は、一貫して職人が手作りしています。一瞬で食べてしまう菓子に、たくさんの時間をかけて心を込めて作る。これは世界的に見ても珍しい文化ではないでしょうか」

金沢では、和菓子は単なる食べ物を超えた存在のように感じます。
「金沢は昔から和菓子文化が盛んな土地で、休日になると小さなお子さんが、上生菓子や落雁を買いに来てくれるような街です。それだけ日常に和菓子が根付いているのです。学校の授業でも金沢の地域の産業として和菓子について学ぶ機会があり、私自身も上生菓子の体験教室のため、幼稚園や小学校に教えに行くことがあります。また上生菓子は2022年、文化庁の登録無形文化財に認定されました。これは一つの文化として認められた、ということだと思います」

金沢菓子木型美術館に展示される木型の数々。加賀金沢に息づく菓子文化の歴史を、静かに今に伝えている。
400年に渡り受け継がれてきた森八の和菓子。その歩みは、パルミジャーノ レッジャーノとの間に共通点を見ることができる。パルミジャーノ レッジャーノは、北イタリアの限られた地域で約900年にわたり作り続けられてきた、イタリアを代表するチーズ。主にその土地の飼料で育てられた乳牛のミルクと塩、レンネットで作られる天然の恵で、保存料や添加物は一切使用していない。チーズ職人は酪農家と連携しながら上質なチーズを作り上げ、その製法や熟成方法はDOP(原産地呼称保護制度)により厳しく定められている。

土地に根付きながら、地域を超えて多くの人に愛されてきた森八の和菓子とパルミジャーノレッジャーノ。この二つを組み合わせた楽しみ方を、中宮さんに提案していただいた。
和菓子とパルミジャーノ レッジャーノ、三つの楽しみ方
和菓子とパルミジャーノ レッジャーノを組み合わせたお菓子を、さっそくご紹介いただけますか。
「今回は、皆さんに気軽に試していただけるよう、特殊な技術を使わずに楽しめる食べ方を三つご紹介します。とてもおいしいので、ぜひ試してみてください」

もなか×パルミジャーノ レッッジャーノ
「ひとつ目は、もなかとパルミジャーノ レッジャーノの組み合わせです。森八には、餡ともなかを自分で組み合わせて食べる『お手作り最中』という商品があります。これにパルミジャーノ レッジャーノをのせて焼いたらおいしいのではないかと思い、考案しました」

「バターと餡は相性がいいので、チーズとも合うはずだと思いましたが、案の定、とてもおいしかったです。餡の甘味とパルミジャーノ レッジャーノの塩味が絶妙なハーモニーを生み出し、香りも豊かでした」

羊羹×パルミジャーノ レッッジャーノ
「二つ目は、お酒とのペアリングを楽しむ一品です。チーズとドライフルーツの相性の良さから着想を得て、パルミジャーノ レッジャーノと羊羹を組み合わせました。羊羹に含まれる適度な水分がドライフルーツに近い感覚で、チーズとの粋な組み合わせを楽しめます」

「盛り合わせたのは『黒羊羹』、刻んだ栗が入った『栗羊羹』、そして『イチジクの羊羹』です。白州や山崎をロックで嗜みながら、フィンガーサイズで少しずつつまむイメージです。食後のひとときを楽しむシーンにぴったりだと思います」

和三盆糖×パルミジャーノ レッッジャーノ
「最後の一品は、少し手間がかかりますが、参考までにご紹介します。落雁に使われる和三盆糖と、パルミジャーノ レッジャーノの香りの組み合わせに可能性を感じ、考案しました。和三盆糖は、盆の上で繰り返し研いで作る日本独自の製法による高級砂糖で、森八では特別に精製してもらった香り高いものを使用しています」

「この和三盆糖の中に、グレーターで削ったパルミジャーノ レッジャーノを合わせ、木型に入れて打ち出し、仕上げにさらにチーズを振りかけて完成です。そのままでも、お酒と合わせても楽しめます」

なお、これらのレシピは近日公開予定なので、お楽しみに!
一瞬で口の中から消えていく和菓子に、何百年もの時間と手間を注ぎ込むこと。その静かな、熱い情熱を帯びた菓子づくりは、土地の恵みだけでチーズを作り続けるパルミジャーノ レッジャーノの哲学とも重なる。金沢と北イタリア。それぞれの風土に根差し受け継がれてきた二つの伝統的な味の出会いは、組み合わされることで新たな表情を見せてくれた。心が込められた食べ物は、ひとの心をやさしく打つ。甘味と旨味の余韻がそのことを教えてくれた気がした。
取材協力=株式会社森八
Text:曽宮岳大
Photo:望月勇輝(Weekend.)
※パルミジャーノ・レッジャーノが認定を受けるPDOとは:
パルミジャーノ・レッジャーノは、EUの原産地名称保護(PDO)に認定されているチーズです。添加物や保存料を一切使用せず、伝統的で自然な製法によって作られています。また、世界で最も模倣や偽造が多いチーズの一つでもあり、PDO制度はこのような製品の呼称や品質を守るために設けられています。
欧州連合規則 第1144/2014号に基づくプログラム101194314 ENSO-EU ― 欧州連合の共同出資による。
※EU規則1144/2014に基づく、EU支援の農産物販促プロジェクトです。

