2026.04.29
パルミジャーノ レッジャーノの真価に触れる。FOODEX JAPAN 2026で体感した“時間という第4の原料”
3月10日から13日にかけて、東京ビッグサイトで開催された国際食品・飲料展「FOODEX JAPAN 2026」。アジア最大級とも称されるこの展示会では、“食”に関わる世界74カ国以上の出展者とバイヤーが集い、最新の情報発信と新たな出会いの場が生まれていた。日本の食文化をさらに豊かにする場としての役割も担っている。会場にはパルミジャーノ レッジャーノ チーズ協会も出展。イタリアを代表するこのチーズの魅力を、実演を交えながら紹介した。
巨大なチーズの中に宿る、文化と職人技

パルミジャーノ レッジャーノ チーズ協会マーケティングチームのシモーネ・フィカレッリ氏。
パルミジャーノ レッジャーノ チーズ協会ブースでは、マーケティングチームのシモーネ・フィカレッリ氏が来日し、約40kgものチーズの塊をカットしながら解説を行った。
「 “パルミジャーノ レッジャーノ”という名前はご存じでも、その背景までは知られていないかもしれません」と切り出したシモーネ氏。チーズをカットする専用のナイフをケースから取り出し、切り込み口に線を引いていく。

「これは単なる食品ではありません。ひとつのチーズの中には、さまざまな要素が詰まっています。文化であり、土地であり、職人技であり、そして情熱と愛の結晶です。普段は小さくカットされたものや粉チーズとして目にすることが多いと思いますが、これが本来の姿なのです」と話しながら、その大きな塊のチーズに視線を向けた。
この約40kgのチーズを作るのに必要な牛乳の量は、500リットル以上という。職人の手作業による添加物を使わないナチュラルなチーズゆえ、工業製品とは異なり、ひとつひとつに個性があるという。シモーネ氏は、名前の由来について説明を始めた。

パルミジャーノ レッジャーノの「パルミジャーノ」はパルマ、「レッジャーノ」はレッジョ・エミリアを意味し、これらを含む5つの限られた地域(パルマ県、レッジョ・エミリア県、モデナ県、レーノ川左岸のボローニャ県、そしてポー川右岸のマントヴァ県)でのみ生産が許されている。
「イタリア出身ならイタリアーノ、パルマ出身ならパルミジャーノ、私はレッジョ・エミリア出身なのでレッジャーノです」とイタリアの命名について説明を加えた。
シモーネ氏は慣れた手つきでチーズの塊に切り込みを入れながら、リンドと呼ばれる外皮を指差し、そこに刻印された特徴的な文字について説明する。

「チーズの外側には点状の刻印や製造年月、例えば2023年8月といった情報が刻まれています。その後、検査に合格すると焼き印が押され、本物であることが保証されます。検査では、ハンマーでチーズのホイールを繰り返し叩き、その音を聞き、振動を感じ取ることで、内部構造や均一性を確認します。
そして、内部にどのような“欠陥”がどれほど存在する可能性があるかを判断します。均一な音が返ってくれば、内部に問題がない証拠です。年間で400万回を超える検査が行われ、要件を満たしたものだけが市場に送り出されます」

手間を惜しまず、長い年月をかけて作られるパルミジャーノ レッジャーノ。そこにかける生産者の想いは深く、熱い。そうした生産者の誇りを守る制度もある。
「パルミジャーノ レッジャーノはPDO(原産地名称保護)製品であり、EUの法律によって守られています。PDOとは、その製品が生まれた土地と切り離せない関係にあることを意味します。フランスのシャンパーニュやスペインの生ハム、カマンベールと同様に、その土地の個性そのものを味わう食品なのです」

「切る」のではなく「割る」
チーズの開け方にも流儀がある。パルミジャーノ レッジャーノの特徴である“粒状構造”を活かして、チーズに対して明らかに小さなナイフを使って割っていく。まずフック型ナイフで切れ目を入れ、次にまっすぐナイフを差し込み、最後にアーモンド型ナイフで割り広げていく。するとチーズは内部から自然に割れていった。
切るのではなく、割ると表現するのがふさわしい。割ることで形は不規則になるが、これこそがこのチーズの象徴である粒状感を表している。

「もうひとつの大きな特徴は、このチーズが自然由来で乳糖を含まない点です。熟成により、乳糖が分解されるためです。割った断面を見ると、美しい黄色の中に小さな白い結晶が見えます。これはチロシンというアミノ酸の結晶で、熟成が進むにつれて現れてくるものです。今回の30カ月という熟成期間は非常にバランスがよく、濃厚なうま味、クルミやヘーゼルナッツのような香りが感じられます。甘みと旨みのバランスに優れます」
シモーネ氏は、半分に割ったチーズを食べやすいように細かな欠片に分けていく。
「ペアリングとしては、フルーティな白ワイン、スパークリングワイン、ヴェルモットやそれを使ったアメリカーノやネグローニなどのカクテル、さらには伝統的なバルサミコ酢ともよく合います」と食べ方についても紹介した。

最後に、イタリアに来られる機会があれば、ぜひチーズ工房を訪れてください。ウェブサイトから申し込みが可能で、職人の技と情熱をご覧いただけます。それではパルミジャーノ レッジャーノをぜひ楽しんでください。ブオン・アペティート!(どうぞ召し上がれ)と述べると、会場には拍手が沸き起こった。
熟成で変わる味と個性。“時間”が生み出す3つの表情
会場では、12カ月、24カ月、36カ月の食べ比べも用意された。見た目も味わいも異なる熟成期間による違いについて、シモーネ氏により詳しく解説してもらった。

「熟成はパルミジャーノ レッジャーノの製造において非常に重要な要素です。時間の経過とともにタンパク質は分解され、アミノ酸へと変化します。断面に見える白い結晶は、アミノ酸の一種であるチロシンです。これは熟成が進むほど増えていきます。熟成が進むと、食感はよりもろく、粒状で、口どけのよいものへと変わっていきます。なお、熟成期間の長さにかかわらず、このチーズは乳糖を含みません。というのも、製造工程の開始から約48時間以内に、乳酸菌が乳糖を分解するためです」
熟成の違いは食感だけでなく、風味にも大きく影響するという。
「12カ月熟成では、食感に弾力が残っています。味わいはフレッシュで、ミルクやヨーグルトのような風味が感じられます。そのまま食べるには最適ですが、すりおろすにはあまり向いていません。溶けやすさは長期熟成によって高まるからです」

「一方、24カ月熟成は、食べる・削る用途の両方に適したバランスの良さが特徴です。うま味が増し、ナッツやバターのような香りが広がります。さらに36カ月になると水分が減り、より乾いた質感に。ナツメグのようなスパイス感、そして強いうま味が現れます。非常に複雑な味わいのため、パッシートやヴェルモットなどの甘口ワインやカクテルとのペアリングもおすすめです」
同じチーズでも熟成期間により、異なる表情を見せるパルミジャーノ レッジャーノ。「私たちは“時間は第4の原料”と呼んでいます」と話すシモーネ氏の解説も納得だ。

熟成の違いは、音楽の好みにも例えられる。
「クラシックが好きな人もいればジャズが好きな人もいる。そのときの気分やシーンによって選べばいいのです」
シモーネ氏は、さらに付け加える。
「ワイン、ウイスキー、カクテル、モクテルなど、多様なドリンクに対応できる食品は意外と少ないですが、このチーズはそれが可能です」
シンプルでありながら完成度が高く、誰もが食べやすいチーズ。パルミジャーノ レッジャーノは世界中で愛されている理由も頷ける。

文 曽宮岳大
写真 望月勇輝
※パルミジャーノ・レッジャーノが認定を受けるPDOとは:
パルミジャーノ・レッジャーノは、EUの原産地名称保護(PDO)に認定されているチーズです。添加物や保存料を一切使用せず、伝統的で自然な製法によって作られています。また、世界で最も模倣や偽造が多いチーズの一つでもあり、PDO制度はこのような製品の呼称や品質を守るために設けられています。
欧州連合規則 第1144/2014号に基づくプログラム101194314 ENSO-EU ― 欧州連合の共同出資による。
※EU規則1144/2014に基づく、EU支援の農産物販促プロジェクトです。

