2026.02.23
パルミジャーノ レッジャーノと茶道、ふたつの文化に息づく「道」
パルミジャーノ レッジャーノ道の「道」とは、書道や剣道と同じように、ひとつの技を極めるために鍛錬を重ねる姿勢を意味する。長い年月をかけ、天然由来の旨みを追求してきたパルミジャーノ レッジャーノのチーズづくりと、その精神が重なることから、この名が生まれた。そして日本で「道」を語るうえで欠かせない存在が、茶道である。今回はパルミジャーノ レッジャーノと茶道のコラボレーションとして、茶道裏千家 教授・養和会代表の味岡宗靖(そうせい)氏の協力のもと茶会を開催。両者に通底する「道」の精神に向き合った。
茶道とチーズに通じる「道」の精神
茶会の開催にあたり、亭主(客を迎える人)と向き合う正客(客を代表し、亭主とのやりとりを担う役)には、ニューヨークを拠点に活躍するジュエリーデザイナー、稲木ジョージ氏を迎え、プレス関係者を前に、パルミジャーノ レッジャーノと茶道の世界に親しんでもらうひとときが設けられた。

茶会待合にて。
稲木ジョージ氏は、日本とフィリピンにルーツを持ち、幼少期に生まれ育った環境が周囲と異なっていたことから、疎外感を受けたり、周囲の反応に傷ついたり困難な時期を過ごしたという。そんな折に、「金継ぎ」に出会った。金継ぎとは、割れたり欠けたりした器を、漆と金粉で修復する日本の伝統技法。傷を隠すのではなく、時間の痕跡として美しさに変えるその手法に心を打たれ、「自分は壊れているのではない。継がれているのだ」と、考え方を転換するきっかけを得たという。
そんな稲木氏の挨拶から茶会の幕が開かれた。

ジュエリーデザイナーの稲木ジョージ氏。
「ジュエリーデザイナーの稲木ジョージと申します。私は2014年に夢を叶えるために単身、憧れのニューヨークへ渡米しました。そして現地でできた友人と話す際に、友人たちは自国の歴史や文化について詳しく知っていたにもかかわらず、自分は故郷であるフィリピンや日本の文化について知識が浅いことに気づき、苦い思いを味わいました。そうした経験を経て、日本の歴史や文化、芸術に対して振り返るきっかけを得たのです。そうして茶道や日本の伝統工芸と出会い、それがいまのジュエリーデザインのビジネスにもつながっています」と、日本文化と向き合うことになったきっかけについて振り返った。

茶道裏千家 教授・養和会 代表の味岡宗靖氏。
続いて、味岡氏がご挨拶。
「皆さま、ようこそお越しいただきまして、ありがとうございます。 パルミジャーノ レッジャーノ チーズ協会から機会をいただきまして、こうして皆さまをお迎えできることをありがたく思っております。まずは皆さまに24ヶ月熟成させたチーズをお出しさせていただきました。後ほど別席でお茶を差し上げますが、まずはパルミジャーノ レッジャーノについてお話をさせていただければと思います」
挨拶を交わした後、話題は“道”へ。味岡氏は、“道”の原点について話し始めた。
「“道”の精神は、中国の道教に端を発し、日本に伝わるなかで、自己を磨き、修練を積み重ねながら、自らの人生をより良いものへと高めていこうとする精神性として育まれてきました。たとえば剣道における“道”とは、単なる剣の技術ではなく、生き方そのものを模索し、追求していく考え方です」
「桃山時代には“茶の湯”と呼ばれていた茶道も、“茶の湯の道”として、日々の稽古や実践を通じて、自己や互いを高め合う営みへと昇華していきました。哲学性や精神性を深めながら、“道”という考え方が日本社会に浸透していったのは、非常に興味深いと思います」

さらに味岡氏は続けた。
「パルミジャーノ レッジャーノ チーズもまた、職人たちが1000年近くにわたり受け継いできた工程や工夫が積み重なった結晶だと思います。その地域の牧草飼料で乳牛を育てることや、搾乳後2時間以内に生産工場へ運び製造するといった厳格な規則は、日々の研鑽の積み重ねから生まれた工夫だと思います」
「シャンパーニュ地方で造られたものだけがシャンパンを名乗れるのと同じように、パルミジャーノ レッジャーノも一定の製造基準のもとで、その名と品質を守り続けてきたのでしょう。試行錯誤を重ねながらひとつのものを磨き上げ、完成度を高めていく。茶道とチーズづくりには、共通する“道”の精神が息づいているように感じます」

技を磨き続ける、クラフトマンシップという思想
続いて話題は、手間暇を惜しまず最高の完成度を追求する“クラフトマンシップ”へと移っていった。
パルミジャーノ レッジャーノの品質は、日々ミルクと向き合いながらチーズ作りに携わる熟練のチーズ職人、カザーロの存在によって支えられている。搾乳は朝と夕方の1日2回行われ、搾られたミルクは2時間以内にチーズ工房へ運ばれる。多くの場合、農場とチーズ工房は近接しており、この密接な共生関係こそが、パルミジャーノ レッジャーノづくりの基盤となっている。
製造の現場では、ミルクの自然な発酵を促すための温度管理、凝固したミルクから水分を抜く工程、加熱を止めるタイミングなど、あらゆる場面で職人の見極めが求められる。ミルクの状態は日々異なるため、同じ工程であっても微調整が欠かせない。製造規則は厳格に定められているが、その規則を正しく機能させているのは、職人の瞬時の判断と、それを支える長年の経験なのである。
稲木氏は、ジュエリーづくりにおける職人の心得について語る。
「僕は、日本のクラフトマンシップが持つ精神性がとても好きなんです。職人さんはジュエリーの製作に入る前、必ず道具に一礼してから仕事を始めます。その姿を見るたびに、単に物を作るのではなく、『大切なものをお客様に届けるために作らせていただく』という姿勢を強く感じ、深く感銘を受けます」
そう語り、稲木氏は職人の心構えについて自身の考えを述べた。

これを受け、味岡氏は日本のものづくりの背景にある文化について指摘した。
「日本の職人は、鋭い観察力や非常に丁寧な手作業、そして技術に裏打ちされた装飾技法など、卓越した技を身につけています。それは、日本の民族性といってもいいでしょう。茶の湯も、そうした日本らしさが集大成された文化だと思います。日本は東洋の地の果てに位置し、さまざまな文化がシルクロードや海を越えて伝わってきました。そして他国から大きな侵略を受けることなく、比較的平和な環境のなかで、柔軟に吸収しながら独自の文化を育んできた背景があります」

「今回のように、『チーズをテーマに茶会を』と依頼された際にも、それを柔軟に受け入れ、取り込むことができる。勤勉でありながら遊び心も忘れない。そうした民族性を感じますね。外から取り入れたものを自分たちの文化として成熟させていく、その風土こそが、日本の職人のクラフトマンシップへとつながっているのだと思います」
ここで稲木氏が、茶の湯におけるもてなしについて口にした。
「パルミジャーノ レッジャーノと日本の茶道は、生まれた土地もそれを育んだ人も異なりますが、どちらも長い歴史の中で育まれ、技と鍛錬によって磨かれてきたという点が共通していますよね。さらに、人と人をつなぐ役割を担うところも注目すべき点だと思います」

その言葉を受け、味岡氏は食と茶の本質について、次のように続けた。
「イタリアでは、大切に作られたチーズをギフトとして贈る習慣もあると聞きます。カットしたチーズを、おいしいワインとともにいただく。食べて飲むという行為を通じて、お互いの距離を縮め、胸襟を開き、皆がひとつになる。それだけでもありがたいことですが、おいしいものを差し上げることは、自分の心を表すことでもあります。それは人の営みとして非常に根源的な行為ではないでしょうか。その日本における、ひとつの究極的な“気持ちの表し方”が、茶道なのだと私は思っています」
器に宿る趣向、和敬清寂という一会
味岡氏は「それでは一服差し上げます」と述べ、茶室へ移る。主菓子には、創業100年を迎えた老舗・青山紅谷の青木龍之介氏に特注した、羽二重餅にパルミジャーノ レッジャーノを練り込み、粒餡を包んだ銘「得牛」が呈される。今回の茶会の趣向である禅の「十牛図」から命銘され、数茶碗にも使われている。
「得牛」では、通常より卵白の量を抑えることで、チーズと餅がなめらかに溶け合い、口に含むとまずほのかな塩味が立ち、やがて旨みが広がる味わいに仕上げられている。さらに、パルミジャーノ レッジャーノが練り込まれているだけでなく、表面にもかけられており、さまざまな食し方ができるパルミジャーノ レッジャーノの特性を生かした菓子に仕上げられていた。

茶道では、亭主が用いた道具の由来や、茶会に込めたテーマについて語り、その趣向を通じて、相手をもてなす。今回の茶席でも、味岡氏が自身の意図を込めて選んだ器について、ひとつひとつ丁寧に説明を加えていった。

「この主茶碗は、私の大叔父にあたる裏千家15代の鵬雲斎宗匠が円相と花押を自彫したものです。円相は禅において、悟りの境地を象徴する重要な図像です。我々が目指すのは、この円満な姿。四角だったものが、三角の修行する状態を経て、次第に角を失い、やがて円になっていく。そこには、人間の成長や円熟の意味が込められています」

続いて手に取った茶碗についても、丁寧に説明が加えられた。
「この茶碗は利茶土ミルグリムの片身替り、釉薬を分けて陰陽を表しているように見えます。そして三碗目はマヨリカ焼きの“リッコ・デルータ”という文様で、2006年にローマで開かれた裏千家の集いの記念品として作られたものです。今回はイタリアとのご縁ですから、水指と茶器には祖母がヴェネツィアで求めたものを選びました」

さらに、床間の掛軸について触れる。
「先々代の14代家元淡々斎の御筆で、和敬清寂です。これは四規、千利休の教えであり、我々茶の湯者が常に心に留めるべき理念です。“和”は互いに心を開き調和する心、“敬”は相手を尊重する心、“清”は清らかさ、己を省みる心、そして“寂”は、どのようなときにも動じない心を表しています。互いに敬い合い、心を整え、常に自省し、よりよくしていこうと努めて、臨機応変に冷静かつ柔軟に対応していく。茶道において目指す境地、その精神ですね」
最後に、味岡氏は茶道の本質について、こう語った。
「茶室に入れば、国籍も性別も年齢も問わず、誰もが食べて、飲んで、感じることができます。まずは“一服どうぞ”から始まり、互いをリスペクトしながら、心を開き合う。そして相手や相手が準備してくれたものに興味を示して関心をもつ好奇心と、感謝する謙虚な気持ち。それが何より大切だと思います」

長い年月をかけて磨かれてきたパルミジャーノ レッジャーノと、日本の茶道。土地も文化も異なるふたつの営みだが、技を磨き続け、人を思い、心を尽くすという姿勢において、同じ“道”を歩んでいることが見えてきた。食べ、飲み、語らうという何気ない行為の中にこそ、人と人を結び、文化を次代へと手渡していく力が宿っているのかもしれない。
壊れたものを、美しさへ。稲木ジョージが歩んできた道
ニューヨークを拠点に、ジュエリーブランド『ミラモア』を率い、世界の感度の高い人々から注目を集める稲木ジョージ氏。日本の伝統技法である金継ぎの思想を、現代のジュエリーへと昇華させたその表現は、国や文化の枠を越えて共感を呼んでいる。稲木氏は、どのような経験を経て、いまの表現にたどり着いたのだろうか。

――NYを舞台にジュエリーブランドを立ち上げた経緯を教えてください。
「大学卒業後、東京で4年間PRの会社で働いていたのですが、すべてのキャリアを捨てて、いわば“逃げるように憧れの地であった”ニューヨークへ渡りました。しかし現地には知り合いは一人もいない。PRは人脈のビジネスなので、アメリカでは面接すら受けられない状況が続きました。心が折れそうになりながら、やっと見つけたのが無償のPRインターンでした。27歳の頃です。ところがやらされたのは雑用ばかり。正直、何も学べなかった。でもその経験から、『自分で起業するしかない』と初めて思ったんです。そこからPRの世界を離れ、今のジュエリーブランド『ミラモア』を立ち上げたんです」

――「金継ぎ」と「ジュエリー」はどのように結びついたのですか?
「共同創業者の実家が日本の工房を営んでいて、『一緒にブランドを作らないか』と声をかけてもらったのがきっかけです。もともとシャネルのPRを担当していたとき、『サヴォアフェール(職人技)』という考え方を学びました。ファッションの最前線にいながら、職人や工房を守り、育てる姿勢に強く惹かれました。日本のモノ作りが好きだった僕は、“デザインはニューヨーク、クラフトは日本”というコンセプトを掲げました。ただ、日本のジュエリーは世界的には知られていない。だからこそ、日本の文化を深く掘り下げる必要があると思ったんです。そしてブランドのデザインを考える中で、金継ぎに出会いました。壊れたものを隠すのではなく、継いで美しさに変える。金継ぎは単なる技法ではなく、精神であり、もっと深い世界観を持つものだと知り、今に至っています」

――結婚だけでなく、離婚とジュエリーを結びつけている点も印象的でした。
「今までのジュエリーは『お祝いのためのもの』という印象が強かったと思います。でも、誰の人生にも辛いことはある。印象的だったのが、あるお客様の言葉です。『30歳まで生きられないと言われていたけど、30歳になるので金継ぎの指輪を買います』と言われたんです。そのとき、自分のデザインが人生に寄り添っていると感じました。別のお客様が『離婚したから、この金継ぎのジュエリーを身につけたいんです』と言ってくださったこともありました。バツイチの“バツ”をレッテルではなく、勲章として生きていく。そんな考えに寄り添うブランドでありたいと思っています」

――今回、パルミジャーノ レッジャーノとのコラボで印象に残ったことはありますか。
「約1000年に渡り、同じ製法を続けていることに感銘を受けました。金継ぎが生まれたのは室町時代頃です。物を大切にするという思想のもと、何百年も続いてきた。パルミジャーノ レッジャーノも同じように、技法を変えず受け継がれている。技法や文化はつないでいくもの。今回のコラボレーションで改めてそのことを再認識しました」
技と思想を受け継ぎながら、自らのスタイルを磨き上げていく。その歩みもまた、ひとつの“道”なのだろう。
Text:曽宮岳大
Photo:鈴木雅人
※パルミジャーノ・レッジャーノが認定を受けるPDOとは:
パルミジャーノ・レッジャーノは、EUの原産地名称保護(PDO)に認定されているチーズです。添加物や保存料を一切使用せず、伝統的で自然な製法によって作られています。また、世界で最も模倣や偽造が多いチーズの一つでもあり、PDO制度はこのような製品の呼称や品質を守るために設けられています。
欧州連合規則 第1144/2014号に基づくプログラム101194314 ENSO-EU ― 欧州連合の共同出資による。
※EU規則1144/2014に基づく、EU支援の農産物販促プロジェクトです。

