2026.02.18
愛と連帯を皿に込めて。「パルミジャーノ レッジャーノの日」とカチョ・エ・ペペ
パルミジャーノ レッジャーノ デーは、2012年にイタリア・エミリア=ロマーニャ州を襲った地震をきっかけに制定された記念日である。同州はパルミジャーノ レッジャーノの主な生産地で、レーノ川左岸に位置するパルマ、レッジョ・エミリア、モデナ、ボローニャの各県、さらにロンバルディア州ポー川右岸のマントヴァ県もその生産エリアに含まれる。震災では熟成棚が倒壊し、多くのパルミジャーノ レッジャーノが被害を受けた。しかし、ある出来事をきっかけに支援の輪は大きく広がっていく。 10月27日、銀座のイタリアンレストラン「ジャッジョーロ銀座」で開催された「パルミジャーノ レッジャーノ デー in 東京」。本イベントを通して、その背景にあるストーリーをひもとく。
絶え間ない鍛錬から生まれるチーズ
イベント冒頭では、パルミジャーノ レッジャーノ協会 日本PR事務局メンバーで、イタリア出身のティツィアナ・アランプレーセが挨拶を行い、「パルミジャーノ レッジャーノ道」という日本独自のコンセプトについて紹介した。

ティツィアナ・アランプレーゼ。
ティツィアナ氏は、約20年にわたり日本に暮らしており、九州大学留学時には剣道や茶道に打ち込んだ。日本の文化から彼女が学んだ印象的な教えは、「達成とは、何かを成し遂げたその瞬間のみに宿るのではなく、その道のりにこそ価値がある」という考え方だったという。
「剣道では、同じ動作を何百回、何千回と繰り返し、一つひとつの所作を丁寧に積み重ねていきます。“道”には、そうした繰り返しの研鑽や忍耐、規律、そして伝統。そうした意味が含まれますが、この価値観はパルミジャーノ レッジャーノのチーズづくりにも通じます」と紹介した。

パルミジャーノ レッジャーノのチーズ職人たちは、何世紀にもわたり製法を守り続け、1つひとつのホイールを手作業で仕上げた後、熟成棚で12カ月から長いものでは100カ月以上もの長い時間をかけてゆっくりと熟成させている。
「“道”とは、目的地へ急ぐことではありません。歩み続ける、その絶え間ない鍛錬が重要なのだと思います。パルミジャーノ レッジャーノ デーを祝うことは、チーズそのものだけでなく、それを手掛ける職人たちに敬意を示すことでもあります。今日はパルミジャーノ レッジャーノを祝福しながら、皆さんに楽しんでいただければと思います」と締めくくった。
祝福のホイールカット
続いて、イタリア人シェフ、ポッツィ・クリスティアーノ氏によるパルミジャーノ レッジャーノのホイールカットパフォーマンスが披露された。このパフォーマンスは、イタリアをはじめヨーロッパで特別なセレモニーの際に行われるもので、カットしたばかりの風味豊かなチーズをその場で味わったり、料理に使ったりしながら特別な1日を皆で楽しむ。

ポッツィ氏によるチーズカット パフォーマンスの模様。
巨大なチーズの塊をふたつに割るパフォーマンスは日本では見る機会が少ないだけに、その場にいた方々は見入るように眺めたり、カメラに収めたりしながらパフォーマンスを楽しんだ。チーズの重さは40kgほど。持ち上げるだけでも大変なチーズの塊を、ポッツィ氏は専用のナイフを使い、切り込みを入れていく。最終的に半分に割られた24ヶ月熟成のパルミジャーノ レッジャーノは、芳醇な香りを漂わせ、会場を一段と盛り上げた。

リゾットに込められた、連帯と再生の物語
この日、ジャッジョーロ銀座の柳田 誠シェフが振る舞ったのは、チーズ(カチョ)と黒胡椒(ペペ)だけで構成されるローマの伝統料理「カチョ・エ・ペペ」だ。この料理は、ペコリーノ ロマーノ(羊のチーズ)をベースとしたパスタとして作られることが多いが、この日はパスタではなくリゾットで、そしてチーズはパルミジャーノ レッジャーノを用いて作られた。
塩味が強めのペコリーノ ロマーノに対し、パルミジャーノ レッジャーノは濃厚ながらもマイルドな味わい。果たしてどんな味に仕上がるのか興味を誘った。

カチョ・エ・ペペを振る舞う柳田シェフ。
「主役はあくまでパルミジャーノ レッジャーノ。チーズの味を邪魔しないことを意識しました」というシェフの言葉どおり、ひと口運ぶと、米の甘みと穏やかな旨みの奥から、チーズのコクと香りが静かに広がっていく。
「チーズにはワインを合わせるもの」という一般的なイメージとは異なり、日本酒とのペアリングも提供された。両者のハーモニーは多くの来場者の共感を呼び、パルミジャーノ レッジャーノの多様性と奥深さを印象づけた。
またカチョ・エ・ペペの他にも、パルミジャーノ レッジャーノときのこのブルスケッタや、パルミジャーノ レッジャーノをかけた照り焼きチキンなどが振る舞われた。

この日のメインに、カチョ・エ・ペペが選ばれたのには明確な理由がある。2012年にエミリア・ロマーニャ地方を襲った大地震では、パルミジャーノ レッジャーノの熟成庫の棚が倒れ、多くのチーズが床に落下する被害を受けた。

被害を受けたチーズを無駄にしないため、シェフのマッシモ・ボットゥーラはパルミジャーノ レッジャーノを主役にした料理「リゾット・カチョ・エ・ペペ」を広く発信した。その後、この料理がロンドン五輪のイタリア代表チームに提供されると、そのストーリーは国際的なメディアの注目を集めた。被災したチーズには注文が殺到し、多くの生産者の復興支援につながった。本イベントで提供された料理にも、そうした連帯の物語が受け継がれていた。
本間るみ子さんが語るパルミジャーノ レッジャーノとは
会場で乾杯の音頭をとったのは、日本におけるナチュラルチーズの第一人者でフェルミエ創始者の本間るみ子さん。本間さんが初めてパルミジャーノ レッジャーノのチーズ工房を訪れたのは約38年前。当時、巨大な銅鍋を使い、職人が手作業でチーズを作り上げる光景に強い衝撃を受けたという。

「パルミジャーノ レッジャーノの各ホイールには、“Parmigiano Reggiano”の文字に加え、製造元の酪農場番号と製造日が刻印されています」と本間氏は説明した。
「このホイールは4月製造を示しており、約2年半熟成されています。本当においしいですよ」

聞けば、本間さんがチーズの買い付けで何より大切にしてきたのは、「自分自身がおいしいと思えるかどうか」だという。実際に何軒もの生産者を訪ね歩き、その中から心から納得できるものだけを選んできたそうだ。
また、熟成庫を訪れた際には、その徹底した合理性にも強く心を打たれたという。数多くのチーズを熟成させるため、高く積み上げられた熟成棚は、定期的に洗って乾かせるよう工夫されているだけでなく、長期熟成によって湿気を帯びた棚も反転して再利用できるよう、あえて固定せずに載せる構造になっている。その実用性と知恵に、深い感銘を受けたのだ。

日本におけるナチュラルチーズの第一人者でフェルミエ創始者の本間るみ子さん。
パルミジャーノ レッジャーノの生産地の一つであるパルマ(ほかにレッジョ・エミリア、モデナ、ポー川右岸のマントヴァ、レーノ川左岸のボローニャの各県)では、このチーズは特別なごちそうではなく、日常の食べ物だ。
「割ってつまみ、テーブルに自然と置かれる存在。製造後に残るホエーは豚の飼料となり、やがてパルマハムへとつながっていく。その循環型の食文化も、強く心に残ったという。
「まずは、そのまま食べてください。そして手で割ってサラダにかける。それだけで十分においしいです」と話す。

時間をかけて作られ、守られ、次世代へと受け継がれていくパルミジャーノ レッジャーノの歩みは、「道」という言葉がよく似合う。完成を急ぐのではなく、ゆっくり時間をかけて価値を育てていく。パルミジャーノ レッジャーノの味わいは、その積み重ねの先に生まれている。
Text:曽宮岳大
Photo:望月勇輝
Movie:Riku Watanabe
※パルミジャーノ・レッジャーノが認定を受けるPDOとは:
パルミジャーノ・レッジャーノは、EUの原産地名称保護(PDO)に認定されているチーズです。添加物や保存料を一切使用せず、伝統的で自然な製法によって作られています。また、世界で最も模倣や偽造が多いチーズの一つでもあり、PDO制度はこのような製品の呼称や品質を守るために設けられています。
欧州連合規則 第1144/2014号に基づくプログラム101194314 ENSO-EU ― 欧州連合の共同出資による。
※EU規則1144/2014に基づく、EU支援の農産物販促プロジェクトです。

